知識創造企業
著者名: 野中 郁次郎 (著), 竹内 弘高 (著), 梅本 勝博 (翻訳)
評価: ★★★★
こんな人におすすめ
- デザイン思考にのめりこんだ人。さらに幅を広げるものとして。
- デザイン思考のバタ臭さがなんとなく鼻についた人。日本もすごいのよ、と思えるものとして。
- ナレッジマネジメントに興味のある方。より本質的には、ドラッカー先生の言うところの「ナレッジワーカー」な集団のリーダーの方へ。
かな。
感想文
『デザイン思考が世界を変える』に感じた既視感の正体を確かめるべく読んだ。正確には10年以上前に読んだと思うので、読み直した。(中身は忘れていたので新鮮な感想である)
思った通りだった。きわめて近い内容が書かれている。それも日本企業を題材として書かれている。 シックスシグマ/リーンシグマに飛びつく前にカイゼンを知るべきなのと同じように、 デザイン思考が席巻するのであれば、ここに書かれているSECIモデルも一読の価値があるだろう。
むしろデザイン思考にはない先進的で重要な要素もココにはある。
そしてこの本とは違うが、既視感はもう一つある。
「Think」という言葉で一時期マーケティングをしていたのはIBMだが、実は初代社長トーマスワトソンが残したという言葉には、Thinkの前工程が明示されている。 それは
1.Read
2.Listen
3.Discuss
4.Observe
5.Think
という5つのステップだったはずだ。 はずだというのは、出所となるIBMの資料が出てこなくて。 数年前に検索した時には、ワトソン研究所の階段の写真があって、こんな感じ(DALL-E作成)に上記ステップが、文字通りステップが掘られていたはずなのだ。
改築でもしてしまったんだろうか。
IBMさん、大事なのはThink-Think-Thinkじゃないと思うぜよ。
この5ステップは実に奥深い。まず人に聞く前に自分で読め、から始まると解釈する。 そして4番目に観察が入る。観察の重要性よ。統計データの重要性を否定するものではないが、デジタル社会だからこそ我々人間はもっと観察を大事にしないといけないと思う次第。
そしてこのことはデザイン思考にも、知識創造企業でも言われている話。
これをもってIBMがデザイン思考の元祖だとか、野中先生の方がデザイン思考オリジナルだとかいうつもりはもちろんない。
ただデザイン思考が1980~90年代以降の新しい考え方という気はしない。その概念的なところは昔から、あるいは洋の東西を問わず、一つの正しい思考法として受け継がれてきたものなんじゃないかと思う。
むしろだからこそ本質をついているわけだ。
デザイン思考byIDEOの優れているのは、本質をついていることに加えて、大量の思考経験を重ねてその方法論を形式知化し、かつ証明してきたことにあると思う。
それと比べるとSECIモデル、少なくともこの『知識創造企業』はやや弱いところもある。数社の後ろ向きな研究、それも成功事例から帰納法的に導いた理論になっている。実践を繰り返して証明されていない。 理論も理論の域を出ておらず、このままでは実践に難渋してしまう。
この本自体が暗黙知のようにも見えるのだ。
ただ言っていることは前述の通り、デザイン思考を超えるものもあるし、日本ならではという自信を持たせてくれる本でもある。 実践と、より一層の形式知化は、別途探してみたい。
と同時に、形式知化が難しい要素があるという気もしてならない。デザイン思考にしろ、SECIモデルにしろ、スティーブジョブスは語れない。ホンダもトヨタもソニーも十分には語れない。そのことが理論の難しさ、一般化の難しさを示しているのではないか。
ただ本著ではこれに肉薄する重要なワードが出てくると思った。
「信念」
ということで、この話は次に進めていく必要がある。